ドゥカティ浜松
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定休日:毎週水曜日、第1第3第5火曜日
先日バルブのロッカーアームキーチェーンが発表されましたね。
私はそれはもう興奮してしまいまして。「ドゥカティ、なんてモンを出しやがる!欲しい(>_<)でも弱冠25歳絶賛金欠バイク乗りに2万円なんて高額出せない!せめて皆様に買ってほしい!!」と思い、興奮そのままにFacebookに投稿したのですが・・・
「あれ?!100件ぐらい来ると思ってた良いねが全然来ない!」
と、次の日愕然としたのでございます。
「ひょっとして、皆様ドゥカティにおいてこのロッカーアーム、特にクロージングロッカーアームがどれだけ魅力にあふれるパーツかご存じない?!Oh,No・・・」これはきっと私の発信が足りなかったんだ、もっと皆様に知って頂きたいと思い至りまして今日はデスモドロミック機構、いや、強いてはクロージングロッカーアームについて深堀していきたいと思います。
いや、分かります、分かりますとも。「これすごいんだよ!」といわれたってその価値が理解できなければ「へー(゜-゜)?」としかなりません。しかし私は知ってほしい。これにロマンを感じるようになったらバイクは、いやドゥカティは倍楽しくなるんだということを!!
まずドゥカティのお店に行くと、魅力についてこう言われたことはありませんか?「ドゥカティの独特なエンジンがうんちゃかんちゃら」「ドゥカティの独特な音がどうたらこうたら」・・・「何が独特なん?」普段は割愛して「独特」とだけ言うこの部分に、デスモドロミックが深くかかわっております。
「デスモプラン」「デスモオーナーズクラブ」と、ドゥカティ界隈ではよくつかわれる「デスモ」「デスモドロミック」は、まさにドゥカティの代名詞ですね。
デスモドロミックとはエンジンを構成する一部の機構の事です。
ここで、デスモドロミック機構のルーツについて、ドゥカティの歴史を辿っていきながら、ロッカーアームがどの様に関係しているのか、紐解いていきましょう。
1955年、ドゥカティはレース活動に熱心でした。
レースに勝つ、それすなわち速いマシン、素晴らしいマシン、誰もが求めるマシン。そんな夢とチャンピオンシップを当時から追い求めていました。
当時、使われていたエンジンはまだデスモドロミックではありません。当時採用していたエンジンの機構では、どのメーカーも最高回転数を上げる事に四苦八苦していました。
それは何故でしょうか。
そもそもエンジンの“回転”とは何かご存知ですか?
エンジンは1気筒当たり上図の様な構造になっています。これは一般的な例です。
吸気バルブが開き、燃料の混合気を吸気、ピストンが上がり混合気を圧縮し、プラグが点火し爆発、その勢いでピストン(クランクシャフト)が1回転、排気バルブが開いて排気します。次の1回転でまた①に戻って吸気、圧縮します。このサイクルがではクランクシャフトが2回転していることが分かります。
回転数といえば1000回転2000回転、一般公道では3000~4000回転ぐらいで走行することが多いですよね。
この回転数というのは、「1分間あたりにクランクシャフトが何回転するのか」ということを現しています。
1秒間では何十から何百回転もしているわけです。
さて、そんな猛スピードで回転しているエンジンですが、ピストンとバルブがうまく連動していないといけないですよね。ピストンが上がった時に、バルブが戻りきっていないと、ピストンとバルブが衝突してしまい、両者を傷つけてしまいます。(バルブサージング)これが最高回転数を上げる事が出来ない大きな要因でした。爆発して勢いよく回転するピストンに、バルブの開閉が追い付かないのです。
バルブサージングについてはこのサイトがとっても親切に教えてくれています。→https://bike-lineage.org/etc/bike-trivia/engine_valve_safety.html
では、バルブの開閉がより精巧に行われる様にコントロールできたなら、最高回転数を上げられるはず・・・
そうしてデスモドロミックを採用したのが、当時ドゥカティのエンジン開発を担っていたファビオ・タリオーニ氏です。
デスモドロミックが最も注目されたのは1954年、55年頃、F1で大活躍していたメルセデスベンツがデスモドロミックを採用していたことからでした。
翌年の1956年、このデスモドロミック機構を2輪界にもたらし、ドゥカティエンジンに採用したのがファビオ・タリオーニ氏その人なのです。今日のドゥカティを造った偉人ですね。もちろん貴方のドゥカティにもこのタリオーニ氏の偉大な功績が継承されています。
話を戻して、バルブをより精巧にコントロールする、について解説していきましょう。
まず、デスモドロミック採用前にスプリングでバルブの開閉をコントロールしている構造について簡単に説明します。
バルブというのはカムシャフトがバルブを押し出しますが、その時一緒にスプリングを押し(圧縮し)ます。そうすることで、スプリングの反発を使ってバルブを引き戻すのです。カムによる押し出し、スプリングによる引き戻しによって開閉しているわけですね。
これ、カムはエンジンの回転駆動を使って回るとして(これについてはタイミングベルトの解説ブログでちょっと話してます→こちら)引き戻しに関してはスプリングの力という”スプリングの性能”に頼り切ったバルブの閉め方をしていたわけです。
それはつまり、スプリングの性能限界=バルブ回転の限界=エンジンの回転の限界を意味します。(エンジンの回転の限界はバルブの開閉だけが全てではないですけどね。)
当時のスプリングは現代よりも性能、精密度が良くなかった為、高回転まわしすぎるとすぐバルブサージングを起こしてしまうのが高出力化出来ない大きな要因でした。(現代はスプリングの性能が向上しています。motoGPではニューマチックバルブなども使われています。詳しく知りたい人は調べてみてください。)
そこでバルブを閉める側の動きもカムでコントロールしてしまおう、というのがデスモドロミック機構です。
かといって、ではカムをバルブオープン用とクローズ用で1つのバルブに二つ用意するというのは全く現実的ではありません。パーツ点数がかなり増え、エンジンは大きくなり、コスト、重量ともに増してしまうからです。
そこで出てくるのが「アーム」なのです!!
では上記内容を元に、下の写真を見ていきましょう。
こちらはシングルカム(一つのカムで二つのバルブを開閉しているもの)の2バルブ空冷エンジンです。美しいですね。
真ん中にあるカムから4つのアームが伸びています。
オレンジ色のOアームと略しているのがオープニングロッカーアームです。バルブを開く方向のアームです。Cアームと書いてあるのがクロージングロッカーアームです。それぞれのバルブに二つずつ、計4つ使っています。
前述の様に、通常はこのクロージングロッカーアームは存在せず、スプリングを使ってコントロールしているのです。
このクロージングロッカーアームは、他のメーカーにはない非常に珍しい、ドゥカティだけのパーツなんです。
さらに、デスモドロミック機構にはもう一点、メリットがあります。
それはスプリングよりもバルブの長さを短く設定できる事です。
L型2気筒のドゥカティは、フロント側に向かって1気筒が伸びています。そのため、フロントフォークのキャスター角やストロークのクリアランスを確保する為に、エンジンのヘッドをミリ単位で短くすることが求められるのです。
その点でも、ドゥカティにとって非常に重要な役割を持っていたことがわかります。
このデスモドロミック機構を採用した1956年のレースは、ドゥカティの独壇場と化したといっても過言ではありません。
数々の華々しい成績を、このデスモドロミック機構と当時のライダーが残しました。そしてそれはドゥカティにとって大きな躍進へとつながる、偉大な1歩だったのです。
ドゥカティの魅力の一つは夢の詰まったバイクである事です。まるで子供が”欲しいと思うすべてのおもちゃ”を詰め込んだおもちゃ箱の様に、純粋な心で作られた大人の夢溢れる1台を作り続けます。コストを惜しまずデザインを追求し独自のエンジンを開発し続けます。
スプリングの性能が上がった今、あえてこのデスモドロミック機構を使う必要性というのは失われつつあります。しかし、オートバイはそもそも家や車の様に”必要”だから乗らなければならないものではありません。「性能も上がりコストも低いバルブスプリングを使う」合理性というのは正しい考えなのかもしれません。しかし、夢に合理性を求めますか?
ドゥカティがこのデスモドロミック機構を使い続けるのには、タリオーニ氏へのリスペクト、今日のドゥカティを造った華々しい歴史、そしてこれからもこのデスモドロミックで結果を残していく、そんな夢が詰まっているエンジンにする為なんだと思います。そして皆様のバイクも夢の詰まったエンジンを載せて走っています。
あ、因みに現在はツインカム(二つのカム)を採用している為、皆様のバイクのアームはシングルカムのアームとはもう少し構造が違いますよ。今は4バルブエンジンが多いので、ツインカムで4つのバルブを開閉しています。
また、現在唯一デスモドロミック機構を採用していないMultistradaV4。このバルブスプリングにも、デスモドロミックの技術が継承されています。MultistradaV4はアドベンチャーというカテゴリー上、走行距離が伸びやすいのが特徴です。そのため、メンテナンスサイクルを極力長く持つことが求められます。
MultistradaV4のバルブクリアランスの点検間隔は、現在市場に出ているどのメーカーのどの車両よりも長く、60,000kmに設定されています。今まで技術的にかなり複雑で高度なデスモドロミックを開発、改善し続けてきたノウハウがあるからこそ実現できた技術です。
さて、如何でしたか?ドゥカティのデスモドロミック機構、クロージングロッカーアームの魅力について1ミリでも伝わったでしょうか?
皆様のドゥカティ愛がもっと深まってくれたら幸いです(^^♪
是非、今の愛車をもっともっと愛してあげてください。
そして、まだこのデスモドロミックを体感していない皆様は、是非体感して、人生で一度はデスモドロミックを乗ってみてください。
ではでは、長文にお付き合いいただき誠に有難うございました!チャオ✋